で、起きたら布団の上から荷物用の紐でぐるぐるに縛られて、タオルで猿ぐつわ、だったわけ。
私の前を行ったり来たりして物色しているのは、見た目はなんていうか……マハラジャ? って感じの若いお兄さんだ。お姉ちゃんより年下か、同じ年くらいだろう。
……なぜに外人がうちの中をうろうろしている?
彼はぴたりと立ち止まり、顎に手を遣って何やら考えていた。そしておもむろに私を見る。
ひっ、と身を竦ませた。ちょ、ちょっと何もしないでよー! 花も恥らう女子高生に手なんて出さないでよね!
「………………」
なにか問いかけられたようだったけど、聞き取れなかった。
怪訝そうにうかがうと、同じ事をもう一度言われた。……あのー、すいません、インドの言葉は知らないんですけど。
疑問符を頭の上に浮かべていると、男は舌打ちした。おおおーい! なに舌打ちしてんの! 私がしたいよ!
ああ、お姉ちゃん早く帰ってきて! あ、でもできるなら梅沢さん連れて来て! 逮捕しちゃって、この変な外人を!
「ただいまー」
その時だ。玄関の鍵を開けて入ってきた足音とその声に私は目を瞠る。
い、今の声は由希?
「あれー? 亜矢姉、いないのー?」
間延びした声は男の子にしてはやや高め。救世主となるのかと期待していたけど、うろうろしていた人が声に気づいて私の傍に戻って来た。
ぎゃああ! 来るな! あっち行け!
リビングに顔をひょこっと覗かせた由希は、名前の印象を裏切らない美少年だ。
華奢な体躯と、中世的な顔立ち。昔は女の子とよく間違われてたよね、そういえば。
「……すげー。なにそれ、なんのプレイ? 緊縛プレイ?」
薄ら笑いを浮かべて言う由希に、本気で腹が立った。おまえはどうしてそういう下品な発想しかしないんだ! 顔はいいのに!
ナイフを私の首元に近づけ、男が由希に向けて何か言う。もちろん、通じるわけがない。
「亜矢姉、俺、二階行ってるわ。そんじゃ、後は二人で楽しんで」
あっさりと手を振って去る由希の姿に真っ青になる。慌ててむーむー唸ってみる。由希は性格が淡白だから、興味のないことには本当に気も向けない。
「帰ったよ」
はあああああ! 神様ありがとう!
美和お姉ちゃん、妹の窮地を救いたまえ〜!
玄関からあがってくるお姉ちゃんのほうを由希が見ているのが、こっちから見える。
「あれ? どっか行ってたの、美和姉」
「まあ。ちと、梅沢の兄さんに呼び出されてね」
「またかよ。相変わらず無能なんだな、あの刑事さん」
さすが、辛らつな口と美しい面立ちのギャップが有名なうちの弟。ずばり言っちゃった。かわいそうな梅沢さん。
「しかし、由希、そこで何してんだい? 邪魔だよ」
「ん〜? なんか亜矢姉が緊縛プレイしてるから、眺めてるとこ」
おおおおい! なにが緊縛プレイだ! ひとを変な趣味がある人みたいに言うな!
「あれま。あの子、顔はいいのに変わってるからね。そういうのに目覚めちゃったのかい?」
目覚めるかあー!
由希がにやにや笑って、視線だけこちらに向けた。おのれ! わかっててやってるな、この悪辣弟め!
足音がする。お姉ちゃんが由希の向こうからこっちを見た。ひぃ! 首にな、ナイフの感触が……。

