気を失う手前の私を見て、お姉ちゃんが無言になった。
「緊縛というよりは、SMプレイじゃないのかねえ、あれ」
「そうかな? だって亜矢姉って痛いの苦手だからね」
 おまえら……殺す。
 と、お姉ちゃんが何かを素早く投げつけた。それを叩き落とそうと男が動く。
「俺のケータイ!」
 悲惨な声を由希があげた。携帯電話は弾き飛ばされ、どこかにぶつかった。なんか壊れたんじゃない? って音までしてたけど……。
 男が私を押さえつけて動けないように力を入れた。でもその時にはお姉ちゃんがもうこっちに踏み出していた。
 さらに何かを投げてくる。お姉ちゃん! 妹が人質にされてるのになんでそんな簡単にー!
 自分の携帯だったらしく、それも叩き落とされる。だけど、もうお姉ちゃんはすぐそこだった。
 足でソファを勢いよく押して、こっちに動かす。見事に男に当たった。よろめいた隙に、気づけば由希が傍まで来ていた。
「まったく、世話ばっかり焼かせるなよな、亜矢姉」
「む〜!」
 感動して唸ると、由希がにやっと不敵に笑った。
 私たちがお姉ちゃんの後ろへと避難すると、お姉ちゃんはやれやれと溜息をついた。
「亜矢、あんたとうとう強盗まで引き寄せるとはどういう了見なんだい?」
 タオルを外されて私は抗議した。
「違うってば! なんかこいつ、テレビから出てきたの!」
「ふーん」
 そんだけ? って反応をするお姉ちゃんがすごい不思議だ。昔から、私の言うことを嘘だとか、否定したことがない。
 由希が紐と布団もとってくれて、晴れて自由になった。
 うおお! なんて頼りがいのある姉と弟! 失礼なこと言ったのは許すから! ああ、でも作戦だったのかな? でも本気で思ってた感じもしたよ?
 お姉ちゃんは私たちを庇うように左腕を広げる。かっこいいけど、ジャージに裸足って……。
 悔しそうにこっちを見てくる男を、私はきちんとその時に認識した。あ、あれ?
 浅黒い肌に、癖のある黒髪。顔立ちはいいほうだ。ん? うちの由希とは趣旨の違う美形、と言えなくもない。
「さて。悪いがうちはどっちかっていうと、それほど裕福じゃないんだ。今なら逃がしてやってもいいけど、どうするね?」
「………………」
 男が口を開いて何か言うけど、由希が首を傾げた。
「なに? 亜矢姉、わかる?」
「わ、わかるわけないでしょ! ほんと怖かったんだから〜!」
 じたばたして由希に抱きつくと、はいはいと面倒そうに由希が返してきた。こらぁ! 姉には優しくしろー!
 お姉ちゃんだけは黙ってたけど、ふむ、と頷いた。
「なにやら探しものがあるんだそうだ。迎えが来るみたいだね」
「……お姉ちゃん、言葉がわかるの?」
「いや?」
「…………なんでわかるの?」
「見りゃわかるだろ」
 さらりと言われてあたしはふらり、とよろめいた。
 どこが。見たらわかるってなによ、それ。相変わらずこの人、むちゃくちゃだわ。
 すぐ傍で由希がぶはっ、と吹き出して、げらげら笑い出した。
「ははは! さすが美和姉〜! すげー!」
「笑いすぎよ、由希」
「だってすごいじゃん! 探偵直感は言語をも超えるか!」
 すげーすげーと連発する由希のことは放っておいて、私はお姉ちゃんをうかがった。どうする気なんだろう……。できればもう帰って欲しい、かも。
 なにやらまくし立てている男をお姉ちゃんは眺め、面倒そうにした。
「連れが来るそうだし、このまま置いておいてもいいんじゃないかね?」
「えー! やだやだ!」
 思わず、ぶんぶんと首を左右に振りながら言うと、お姉ちゃんは肩をすくめた。
「そんなこと言われてもねえ、わたしゃか弱い一般市民だから」
 どこがよ!
 思わず突っ込もうとしたら、由希がまたげらげらと笑い声をたてた。笑いすぎだっての!
「まぁ俺も美和姉も、護身術ちょっとかじっただけだし、無茶できないっていうのわかるけどさ」
「でも泥棒もどきよ! 追い出しちゃおうよ!」
 必死に言う私を、青年が見てくる。ひっ! 思わず由希の背後に完全に隠れてしまった。
 ていうか、なんなのこの家族は! 前から異常だとは思ってたけど、ここまでなんて!
 ふつう、家の中に見知らぬ男がいて、家族が縛り上げられてたらもっと怒るし、動揺するもんじゃないの!?
 変人だ変態だと散々思ってきたけど……まさかここまでなんて……。