「……あらら。なんか亜矢姉が脱力しちゃってるんだけど……。
 美和姉、どうすんの?」
 困ったような由希が珍しく気遣ってくれている……。でも絶対、背後に私が寄りかかってて重いからだ。……くそー。
「まああちらさんは出て行く気がないみたいだし、放っておくかね」
 こらああああああああ! なにその対処! ありえないでしょ!
「梅沢さん呼んで、逮捕してもらおうよお姉ちゃん!」
 我ながらナイスアイデア!
 頷きつつそう言うと、お姉ちゃんは面倒そうに片手を振ってみせた。
「ついさっきまで顔つき合わせてたんだよ。やだね」
「面倒なだけでしょ!」
「あっちはお役人。わたしらのありがた〜い税金で食ってる公僕なんだよ? あんまり手をわずらわせちゃ、可哀想じゃないか」
「うそばっかり!」
 呼びつけるとすぐに来るとわかってるから、嫌がってるだけなの、知ってるんだから!
 お姉ちゃんが好きな梅沢さんとしてはかな〜り可哀想な話だけどね。ああ、本当に脈がなさそうで、泣けてくるわ。
「うーん。亜矢がそんなに嫌がるなんて、死体を前にした時と、ゴキブリを前にした時くらいかと思ってたよ」
 どこか感心したように言うお姉ちゃんを、私は思わずぎろりと睨む。
 どっちも大嫌いだけど、不審者に親切なんて異常よ、異常!
 お姉ちゃんは不審者、もとい泥棒に向き直った。
「というわけで、出て行っとくれよ」
 さらりと、日本語で言った。
 ………………あの?
 その人、日本人じゃないと、思う……んだけど?
「居てもいいところ紹介したげるよ。
 諒色寺(りょうしきじ)ってとこなんだけど、あそこならうちより広いしね」
 ひっ! よりにもよって、お姉ちゃんの友達のあの一色さんに預けようと……いや、丸投げしようとしてる!
 ちなみに一色さんていうのはお姉ちゃんの幼馴染。でも恋愛感情なしの、友情だけの男の人。
 スキンヘッドの若者だけど、かなりのネット通だし、なんか色々やばいことやってそうだし、怪しいし……な、人だ。
 なによりあのアロハ! なんでいっつもアロハシャツ着てるのよ! 冬はその下にさりげなくババシャツ着てるの知ってるんだけど!
 お姉ちゃんは泥棒を観察し、溜息をついた。
「お迎えはここじゃないとわからないそうだよ。亜矢、諦めな」
「えー!」
 なんでこっちが折れるのよ! おかしいじゃない!
 こっちは被害者なのよ! なんで加害者を擁護するのよ!
 むむむと睨んでいると、お姉ちゃんがしょうがないねと呟いた。
「じゃあこのリビングから出ないようにしてもらおうじゃないか」
「はあ?」
 言ってる意味がわかんないんですけど。
 さすがに由希にもわからないようで、「んん?」と洩らしている。
「円に結界でも張ってもらおうかね。あんなんでも、坊主だし」
 宗教が違うんですけど! ていうか、お寺って結界とかそういうオカルトオッケーだっけ?
 いや、人形をおさめるお寺か神社があるんだから、あってもおかしくな…………いやいやいや、変でしょ今の会話!
「すげー、まどかちゃん、そんなことできんの?」
「知らないけど、できそうじゃないか」
 なんですってー! 適当なこと言わないでよ!
 由希は「でもできそうだよな」と笑っている。笑ってる場合じゃないし、何回も注意してるけど、一色さんをしかも下の名前で「ちゃん」を付けて呼ばないの!
 と、そこで泥棒が何か話しかけてきた。お姉ちゃんに懸命に、というより対等な立場として? 話してる感じがする。
 ……まあね。お姉ちゃん、ムダに態度でかいしね。本人、そのつもりないみたいだけど……。
「ねえ由希、なに喋ってるかわかる?」
「さあね。ていうか、喋ってないのに事情わかる美和姉ってすごくね?」
 そっち!?
 思わず睨みつけると、由希は泥棒のほうに視線をすぐに戻した。調子のいいやつね、本当!
 一通り話し終えたあと、お姉ちゃんが頷いた。そしてこっちを見る。
「なに言ってんのか、さっぱりわからないね。困ったね」
「うっそー! わかってそうな顔と合致しないセリフ言わないでよ!」
 涙目になる私に、でも、とお姉ちゃんは続ける。
「どうやらどこかから逃げてきてて、迎えを待ってるってのは当たってるっぽいね。
 かくまって欲しいんじゃないかね」
「…………こんな狭い一般家庭で?」
 すいません、異文化交流は避けたい所存なんですけど。
「てこでも動きそうにないけどね。ま、どうしてもってんなら、円を呼んで連れて行ってもらうよ」
 それって無理やりってことじゃない! 戦える坊主を自称してるあの人を呼んだら、部屋が大惨事になるわよ!
 ぎゅう、と由希の肩を握る手に力を込める。
「い、いてぇよ姉ちゃん」
「おねえちゃんは、かなしい」
「わかるけどさぁ、言葉も通じないし、さっきの亜矢姉の状態見てたらこっちも危ないぜ?
 通報なんてしてみなよ。刺されるかもじゃん」
 あんたには私を守ろうとかいうそういう気概はないわけ?
 薄情な弟をまた睨むけど、由希は平然としてる。まあね……わかってたけど。