奇妙な空間に私は緊張しっぱなしだった。
 ソファに並んで座ってテレビを観る姉と弟。その図は、ある意味家族団らんみたいで、正しい。
 でも、そこに異物が混じっている。
 床に、と言ってもカーペットの敷かれた床にでんと偉そうに腰を落ち着かせている泥棒も、一緒にテレビを観ている。
 …………なにこれ。気色悪い。
 緊張して汗をかいていると、由希が「ぶふっ」と横で吹き出した。
 え? なんか面白いシーンだったかしら?
「ぶくく……。亜矢姉、すげぇ顔してる……!」
 こ、こいつ……! 横目で見てたなこっちを!
 思わず拳を作って殴りつけてやると、由希がゲラゲラと笑い出した。
 二階から「うるさい!」とお姉ちゃんの怒鳴り声が響いてきたので、由希は黙った。……なんで美和お姉ちゃんにだけそんなに忠実なのよ?
「不公平だわ。美和お姉ちゃんだと、言うこときくなんて」
「そんなの亜矢姉もだろ?
 あの直感だぜ? なに考えてたって見抜かれてるって」
 う。そ、それもそうかも。
 隠し事とか、小さい頃から全然できなかったもんなー……。
 由希がちら、と泥棒を見た。
「しっかしどこの国の人だろうな。美形で、色黒で、目なんて赤色だぜ? すげー」
「……きっとマハラジャよ」
「亜矢姉って、発想が貧困だよなー……」
 悪かったわね! だってこういう南国系の人に対する知識なんて、普通はないわよ!
「本物のマハラジャなら、慰謝料もらおうぜ」
「…………あんた、どうしてそういうことばっかり……」
 お金に無頓着な美和お姉ちゃんと違って、由希はかなり執着するタイプだ。
 前なんて、お姉ちゃんが解決した事件の依頼主に平然と謝礼をもらおうとしていた。…………お姉ちゃんにバレてグーで殴られてたけど。
 テレビの画像がチラつくので、私は「む」と顔をしかめる。
「え? なに? ちょっといきなり映像悪くなったけど」
「アンテナにカラスでもいるんじゃないかー?」
「そうなの?」
「可能性の一つ。なんなら、美和姉に訊いてみたら? すぐに教えてくれるぜ?」
 そんな怖いことできないわよ!
 絶対に寝てるもん、今! 安眠妨害したら、殺されそうよ。怒ったあとは、特に。
 押し黙ると、由希も黙った。……さすが姉弟。美和お姉ちゃんの怖さはよくわかっているってことね。
 その時。
 いきなりパッとテレビの映像が切り替わった。
「えーっ!」
 絶叫を上げる私はリモコンのボタンを必死に押す。
 ちょうどいいところだったのに! 今、男優がまさに女優に告白しかけたいいシーンだったのに!
「っっ!」
 背後で大声があがったのでビクッと身を竦ませる。
 泥棒が立ち上がり、テレビを指差していた。
 視線をテレビに戻すと、いかにも金持ちが好みそうな港が映っていた。
 あぁ、なんかすごいな。ヨーロッパ旅行みたい。
 あれ? ていうか、チャンネル変えてないんですけど?
「っ!」
 喚きたてるので、二階から再びお姉ちゃんが「うるさいっ!」と怒鳴ってきた。
 泥棒もびっくりして停止してる。……ああ、もう可哀想だなこの人。一生、美和お姉ちゃんに逆らえないわよ、もう。
 テレビのほうへ近づき、彼は画面と自身を指差す。
「……その映ってる場所から来たってことかな?」
 由希、バカにしてるの? さすがに私にだって今のジェスチャーはわかるわよ。
 二人揃って頷いてみせると、泥棒が胸を撫で下ろした。なんで安堵するのかは、よくわかんないけど。
 だから? という顔を平然とする由希に、彼は驚愕したようだ。
「………………っ!」
 立ち上がり、偉そうにふんぞり返る。なにか言いながら。
 でも言葉が通じないとあれね。本当、宇宙語にしか思えないわ。
「亜矢姉、やっぱりこの人、金持ちかもしれないぜ。なんかそういう感じしない?」
 なんていやらしい顔つきしてんのよ、この子は! 美少年なのが台無しだわ! 情けないわよ、おねえちゃんは。
「だからなんなのよ? 私は忘れてないのよ? ついさっきされたこと」
「いいじゃんべつに。根に持つのやめようぜ。慰謝料もらうって方向でまとまっとこうよ。
 どうせ襲われてもさ、手ぇ出されたわけじゃないんだろー?」
「下品なこと言わないでよ!」
「亜矢姉ってさ、潔癖だよなー……。いや、うちの女はみんなそうか」
 お母さんのことまで思い浮かべて、由希は溜息をついた。なんていう失礼な弟だろう!
 無視された泥棒がまた大声で言うので、由希が「はいはい」と軽く応じている。