私は必死にチャンネルのボタンを押しているのに、映像は戻らない。ムッキー! どうなってるのよ! 修理屋呼ばないといけないじゃない!
 と、画面からにょき、と腕が生えてきた。
「ぎえーっっ!」
 絶叫をあげて由希に抱きつく私。
 さ、最悪! ま、ままままた腕が生えたー!
 どうなってるのようちのテレビ! 買い替え時って言いたいわけ? そんな主張はいらないわ!
「うわ、すげー。手品か」
 なんでそんな笑ってんのよ由希ってば!
 そこは笑うところじゃない、驚くところよ! 怖がるところなんだってば!
 そういえばこの子、お姉ちゃんと事件現場に居てもへらへらしてたっけ。サイテーじゃないの!
「ちょっと失礼」
 腕を振りながら、見知らぬ声がテレビからした。そしてこちらにずいっ、と出てくる。
 ぎゃーあああああああああああ!
「………………」
 あまりのことに失神しかけた私を、由希が支えた。
 と、と、ととと鳥の頭が……人間の言葉を…………!
「あ、すいません。うちの王子が迷惑かけてるみたいで」
 しゃ、しゃ、しゃべ……???
 くらり、と目眩がして項垂れる私を由希が揺らす。
「気絶してる場合じゃないって、亜矢姉。これはあれだ。ファンタジー世界だぜ。
 ぶはっ! 亜矢姉の事件引き寄せ体質もここまでくればすごくね?」
 ……なに笑ってんのこのコ……。さいあくだわ……。
 上半身だけテレビから出てきている状態の鳥……の頭をした人間? のようなものが、言う。
「あ、初めまして。モンテと言います。一応、宮廷で魔道士なんかしてるんですけど」
「マドーシだって。ジョブからして、すでにファンタジーの匂いがムンムンするな」
 ……あの、なに楽しそうにしてんの由希?
「言葉が通じなくてさぞかし困ってらっしゃるかと思いまして、抜け出してきたんですけどこれが限界ですな」
「どうでもいいけどさー。うちの姉ちゃんを襲ったんだぜ、そこの人」
 由希は堂々と泥棒を指差す。
 すると鳥頭はぺこぺこと頭を下げた。
「それは大変申し訳ないことをしました。ご婦人にそのような乱暴をなさるとは。
 幸い、ナギル王子には婚約者もいませんし、責任をとらせましょう」
「そうそう、責任問題って大事よー?」
 由希のやり取りに頭痛がしてきた。
 なにこれ。こういうの、夢の中とか、小説とか、マンガとかでやってくれる? お願いだから私のいないところでやってよ……。
「王子、このイヤリングをおつけください。言葉が通じますぞ」
 おじいさん言葉で喋ってるけど、声は若い。なにこれ……ほんとなにこれ。
 イヤリングを受け取る泥棒とは違い、由希はそのまままじまじと眺めている。
「すっげーな……。あれ、首から上だけインコだぜ?」
「いや……インコとかそういう問題じゃなくて……」
 なぜに鳥人間がいるのかとか、どうしてテレビからそんなのが出没してるとか……。考えること、たくさんあると思うんだけど。
 ていうか、日本語で通じてるの? なにかの魔法かなんか? いやいや、ファンタジーだからって魔法とかそんなまさかね。
 イヤリングを耳につけた泥棒が口を開く。
「よくやった、モンテ」
 げぇえええええええ!
 日本語に変換されてる! なにそれ!
「いえいえ、王子こそご苦労ですね。しかし王宮内では現在不穏な動きが続いております。
 しばらくここに潜伏することをおすすめしますぞ」
「そのようにしよう」
「冗談じゃないわ!」
 なにが「そのようにしよう」よ! ふざけないで!
 私は立ち上がって泥棒に指を突きつけた。
「あんたみたいな野蛮人、うちに置けるもんですか! 一色さんに預かってもらうわ!」
「はて、困りましたなぁ。ココが一番繋がりやすいので、ここに王子の滞在を願いたいのですが」
 上半身だけで懇願するのやめてよ! 気味悪いわ!
「嫌よ! お姉ちゃんと由希がいいって言っても、私は嫌!
 この人はね、私をいきなり押さえつけて縛ったのよ! 人の家にあがり込んでおいて、なんて人なの!」
 ていうか、帰れ!
 インコ頭は困ったように頭を掻く。
「あらぁ。王子、本当にそうされたんですか? そこの坊ちゃんのたわ言ではなく?」
「だからそう言ってんじゃん。責任問題だぜ?」
 由希がしれっとして言うものだから、泥棒が顔色を変えた。
「そ、そこまでこの世界では重大な問題……なのか?」
「問題問題。大問題よ。
 未婚の女性にいきなり襲いかかるとかありえないね。こっちじゃ捕まって警察行くだけで済めばいいけど、下手すりゃネットに顔写真でまくるし、大変だぜ〜?」
 楽しそうに言う由希の言葉に、私もつられて青ざめる。
 な、なんかおかしなくらい肥大しちゃってない? 私に起こった出来事が。
 泥棒が考え込み、それからインコ頭を見遣った。
「確かに正妃の座は空いている。この娘にその位を与えるのはモンテとしてどう思う?」
 はいいいいいぃぃ???
「ま、そのへんは王子のお好きにすればよろしいでしょうな。血筋のいい娘は第二、第三妃に置いても文句は出ますまい」
「ふむ」
 ふむ、じゃないわああああぁぁ!
「な、なんの話ししてんのよ、あんたたち!」
 思わず横の由希をぐらぐらと力強く揺さぶりながら、私は言う。
 正妃? 第二、第三妃?
「なにって、責任の話ですが」
 このインコ! なにが責任か!
「ばっかだなぁ。こっちの世界では、そういうのは責任取るって言わないんだよ。お金だよ、宝石とか」
 けろっとした顔で言い放つ由希の頭を発作的に殴る。あ、しまった。
「なんと。そのようなもので責任を取るのですかな、こちらの世界は。
 困りましたな。王子の所持しているものでは、国宝の『リィエンの華』しかないと思われますが」
「……それは正妃が所持するものだから、差し出すわけにはいかぬ」
「へえ。じゃあ責任逃れするってわけ? やだねえ、責任感のない男って」
 肩をすくめて由希が挑発するものだから、泥棒がムッとして眉を跳ね上げた。
「では正妃の身分と、その宝玉を差し出そう! それならば文句はあるまい!」
「いやああああああああああ! 美和おねえちゃぁぁぁんっっ」
 とうとう私が絶叫をあげて助けを求めた。
 おお、ここに救世主よ舞い降りたまえーっっ!