モンテ=インコは額にリモコンの直撃を受けた。エアコンのリモコンなのだが、彼はソレがなんのリモコンなのか知るよしもない。
投げたのは木暮美和。亜矢と由希の姉だ。
「言い訳はいらないんだよ」
冷たく言い放つ美和は、王族とは違う威圧感があった。
その様子にナギルも恐怖を覚える。第二王子、兄である彼にも恐怖を感じてはいたが、それとは種類が違う。
「うちの妹と弟が異世界に行ってるってのに、助けられない? ふざけてんじゃないよ」
「も、申し訳ありません」
額をさすりつつ謝るモンテの姿に、自分の姿が重なる。美和に怒られるとどうしても逆らえない。それはナギルもだ。
「べつの魔道士がナギル王子を喚ぼうとしたものに反応したようで……。あちらから拒絶されてまして」
「だから、言い訳はいいんだよ。わかってるんだよ、そんなこと」
「は?」
「喚んだってのは、第一王子の手のもんだろ」
「はあ?」
モンテが驚愕してしまう。
「な、なぜそのようなこと……。憶測でものを言ってもらっては……」
「モンテ、ミワ殿の言うことは真実だと思うぞ」
「え? な、なぜですか王子」
なぜと言われても……。
知るはずのないナギルの事情もズバリ言い当てたし、どうもこの家の連中は全員、美和の直感にハズレがないと信じているらしい。
「ナギルじゃなくて別のヤツが召喚されたんだ。姉としては、助けに行きたい心情なんだがね」
声がものすごく怖い。いつもみたいに無表情だから、余計に。
モンテも「ひっ」と声をあげて震えている。
「ミワ殿でも、アヤたちの様子はわからぬのか?」
「どいつもこいつも……。わたしゃ、万能じゃないんだよ?」
当然のことを言われてナギルはびっくりしてしまう。あまりにも亜矢や由希が美和を万能扱いするので、どうもしっくりしなかった。
「わかることにも限界があるし、たまたま『そう思う』だけなんだ。あの子たちが今どうしてるなんて、わかるはずないね。
ま、生きてることだけははっきりしてるけど」
断言する美和は腕組みして、モンテを睨むように見下ろした。
日本での最上級謝罪・ドゲザをさせられているモンテはこれ以上なにをされるのかと震え上がっていた。
「とにかく、あの子たちに何かあったら許さないよ。どうにかしな」
「ど、どうにか、と言われましても」
ゴンッ、とまた何かを投げられた。またも額に当たって、痛い。
テレビのリモコンだ、今度は。
「言い訳するのは、全部やることやってからにしな! あんたも男だろ!」
「はっ、はい!」
モンテはもそもそと立ち上がると、どうにかして向こうへ行こうとあれこれ考え始めた。
残されたナギルは冷や汗をかいた。美和の怒りが自分に向けられるのもわかっていたからだ。
「ナギル」
「……はい」
「なにをビビってんだい?」
ビビるに決まっている。なにか失敗するたびに額にものを投げられているし、説教までされているのだ。
怖い。この人間は、怖い人間だ。
「あんた一人でも戻れそうにないかい?」
「それは無理だ。オレはモンテの力でこちらに来た。魔術は使えないのだ」
「……そうかい。
じゃ、こういうのはどうかね」
美和は携帯電話を取り出して、誰かにかけ始めた。呼び出した相手はすぐに来ると言っていた。
もう一人にかけた後、美和はぶつぶつ言っているモンテに声をかける。
「向こうへの道が開けないって話だけど」
「えっ! あ、はい!」
「向こうからこっちへ、召喚はできるだろ?」
美和の言葉に怪訝そうにしながら、モンテは「はぁ」と洩らす。
障害さえなければ向こうからこちらへは喚べるだろう。こちらからあちらへの道が封鎖されているだけなのだから。
「そうかい。じゃ、とりあえず待つか」
美和はソファに腰掛け、そのまま瞼を閉じて眠ってしまった。
ナギルとモンテは揃って胸を撫で下ろす。
「ミワ様は、なんというか、妙な迫力がありますなぁ……」
「だろう? 王族とは違う妙な威圧感があって、オレも困っているのだ」
駆け引きがまず通じない。こちらの思惑は全部バレる。まるで心を読まれているようで怖くもあるのだ。
しばらくしていると、玄関のチャイムが鳴って、二人の男が現れた。
一人はスーツをビシッと着た、身なりのいい男。もう一人はスキンヘッドにアロハシャツという出で立ちだった。あまりにもアンバランスな二人だ。
「美和さん、お呼びとうかがって梅沢、やって参りました! ちょうど非番の日だったのは良かったです」
嬉しそうにどこかうっとりと美和に話しかける真面目そうな男とは対照的に、アロハなハゲ男は唇を尖らせた。
「なんの用だ木暮。おれっちは忙しいんだぞ」
「ちょうど今から不審者を呼ぶから、二人に捕まえて欲しいんだ」
「はあ?」
全員の声が重なる。
「なにしろ、わたしゃ、か弱い一般人だからね。腕っぷしのある二人を呼んだんだ。悪かったね、忙しい中」
美和は淡々とそう言うと、モンテのほうへ向き直った。
「じゃ、喚んでおくれ」
「喚ぶって……誰をですか」
「第一王子に決まってるだろ」
「む、無理です! 王子の周囲にも魔道士はいるのですぞ!」
「それをなんとかしろって言ってるんだよ」
ええええええー!
無茶苦茶を言う美和は、腕組みをして鼻を鳴らす。
「どいつもこいつもわたしを探偵役にしたいみたいだからね、種明かしをしてやろうって思ってるんだ。ここで」
「ここで?」
ナギルも仰天している。
そもそもあの優しい第一王子が裏で第五王子を暗殺していたなど、今でも信じられないというのに。
美和はモンテを見遣る。
「確率はゼロじゃない。やってみな、インコ」
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