丁重にもてなされる予定、だったのよね……たぶん。
屋敷のどこかの部屋に案内されて、二人きりにさせられた途端、由希がまたデジカメを取り出してそこらへんを撮影してる。
「建物見て思ったけど、なかなかあれだね。特徴的な世界じゃん?」
「……なにが」
不機嫌な声で応じると、由希がデジカメの画面から目を離してこっちへ向けた。
「神殿とかそういうの、ありそうな感じしない?」
「…………する」
馬車はあるけど、なんだかヨーロッパ風じゃなかった。もっと強固っていうか……うまく表現できないけど。
「電気がまず通じてないから、オレたちからすれば昔の時代にタイムスリップ的な感じだろ」
「……それもそうかもね」
そんな陽気は私にはまず体感できないわ。もう早く帰りたい。なんでこんなホームシックなんだろ。……いや、それが当たり前よね。
「そもそもさ、美和姉の話が本当だとすると」
あぶなくね?
と、口パクで最後のセリフを言われる。
まったくもってその通りだ。
表では仲良く。でも裏では違う。
ありがちだけど、それでも…………あの、巻き込まれるほうはたまったものじゃないわよね。
ちょうどその時、パキがドアを開けて入ってきた。一応ノックはされたので、こっちが答えるとすぐに。
「王子が来られますので、身支度を整えてもらってもよろしいでしょうか?」
はあ?
ぞろぞろと入ってきたメイドたちが、勝手に衣服に手をかけていく。
ぎゃああああー!
「いいです、脱ぐから! ああっ、それファスナーだし!」
作りが違ってわからないので、力ずくになってる! やめてよ! それお気に入りの服なんだから!
由希はあっさりとシャツを脱ぎ始めていた。なんて恥じらいのない弟! 一応姉とはいえ、乙女の前でなにやってんのよ!
睨みつけてやると、
「破れると嫌だし」
と飄々と言われた。にくたらしー!
姉弟ってこういう時に楽だ。私もさっさと服を脱いで下着姿になる。
うぅ。ありえないわよこの光景。普通、マンガとか小説だと、もっとこう、こういう場面って省略されたり、ぼかされたりするもんじゃないの?
そもそも弟と一緒ってのがナイ。ありえナイ。
下着姿になった途端、メイドたちが衣服を着せていく。髪までいじられた。
「本当は清めてからのほうが好ましいのですが」
「なに見てんのよヘンタイ!」
えええええー! あのトカゲ、まだ居たの!? どういう神経してんのよ!
「……おぉ、メスかなもしかして」
由希の言葉に「ハイ?」と聞き返しそうになってしまう。いや、そう……きっとメスなの。女性に違いないわ。だから……ま、まあいいや、下着姿くらい。
胸元とかぺったんこだけど、美和お姉ちゃんもあるほうじゃないから……きっとそうよ。そうに違いない。
飾り立てられると、ぎょっとしてしまう。由希が似合いすぎててびっくりした。
宝飾品をつけられた、どこかの西洋人のマハラジャ……いや、貧困だからほかに表現できないっていうか。
「ナギル王子の故郷の民族衣装なのですが、よろしいでしょうか」
着せてから是非を訊くわけ? 意味わかんないんですけど!
私が頬をふくらませていると、由希が「ふぅん」と呟いた。
「第一王子様は、ナギル王子様と仲がいいって本当なんですねぇ」
いきなり声質変えてんじゃないわよ! 猫かぶりモードは必要ないから! いや、私が見たくない!
「それはとても。ナギル様の母君は他国からの花嫁でしたから、ナギル様は宮殿では孤立しがちでした……」
なんだかその、お涙ちょうだい的な潤んだ声で説明するのやめて欲しい。
美和お姉ちゃんからその第一王子が陰謀を企んでるって聞いてなきゃ、「そうなんだー」って信じちゃうところよ。
でも、その第一王子様に会うことはなかった。
彼はドアを開けたその瞬間、そこから消えうせたのだから。
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