「どうも行き来できないように強力に邪魔されておりましてな。王宮にある、隠し通路手前の部屋にある鏡を使えば帰って来れるのです」
「ど、どうやってそこまで行くのよ!」
「アヤ!」
呼ばれてぎくっとしてしまう。インコが背後を振り向き、なにかを受け取ってから頷いている。
この声はナギルだ。
「『リィエンの華』だ。これを身につけて王宮へ行くと兵士に伝えろ。そうすれば行けるはずだ」
「待ってくれ。行ってからの地図も必要だ。オレたちは異邦人なんだぜ?」
由希が遮ってもっともな意見を言った。
鏡からインコの手が無理にこちらに出てくる。
「指輪と、地図です。ミワ殿はさすがですな」
そう言うなりインコの姿が突如として消えた。どうやら通信はこれが精一杯だったのだろう。
床に落ちている指輪を私が、地図を由希が拾い上げた。
「あーあ、指輪なんてもらっちゃって」
「からかうんじゃないわよ! この様子だと、相当大変なことになってるじゃない!」
地図を広げながら由希が長いすに腰掛ける。
「まあこの地図を頭に叩き込むから、亜矢姉は兵士にどうやって命令するか考えるんだな。あのトカゲ頭のことも気になるし、こっちも気は抜けないぜ?」
「と、トカゲ頭って……」
たぶん……魔道士ってやつじゃないの?
私はどかっと由希の横に座り、腕を組んだ。そして、薬指に指輪をつける。あつらえたかのようにぴったりで、びっくりした。
ついている宝石は大きくない。けれどもリングは凝った細工がされていて、宝石のほうは見たこともないような虹色をしていた。
これ……ナギルにはとっても大事なものなんじゃ……。
そんな考えが過ぎったけど、今はそれどころじゃない! やらなきゃならないことがあるんだもの!
兵士をうまく騙して、王宮まで行く。そして隠し通路の前の部屋の鏡の前に行くこと。
あー、もう今頃お姉ちゃんたちはどうしてるだろう?
*
ドアを思い切り開けて、私は指輪をつけた手を大きく掲げた。
たぶん何を言っても通じないのは明らかなので、ギッと睨む。そして顔の近くまで指輪を大きく近づけた。
兵士が驚き、ぎょっとしてひざまずいた。
おお! 水戸の老人の印籠みたいな効果!
「よっしゃ亜矢姉、そのまま部屋に連れて入って、王宮を指差すんだ」
「わかってるわよ!」
由希の声に兵士を無理に立ち上がらせ、開け放たれた窓から見える王宮を指差した。
切羽詰ったように早口で訴える。とはいえ、なに言っても平気だから、おなかすいただの、面倒だのと、勢いをつけて喋りまくった。
困り果てた兵士は駆けつけた兵士たちと何か言い合う。お、これはいい感じ?
私は再度指輪をどーん! と見せ付けた。
うっわー。我ながら安直すぎる。こんなのでうまくいくわけないっての、本当は。
「何事ですか」
っぎええー!
やっぱりうまくいかないか!
私はがっくりと項垂れかけたけど、由希が毅然として私の前に立ち塞がった。
「姉さんは国王陛下に挨拶に行きたいと言っているんだ。それと、殿下のことも心配だから、なるべく帰還の近い王宮へ行きたいと」
「ええ。手違いでこちらに来てしまったけど、私はナギル殿下の婚約者。陛下に挨拶にうかがうのも勤めです」
「どのような心境の変化ですかな?」
うわっ、インコと同じで表情がわかりにくい……。
内心冷汗ものだったけど、由希は堂々と遣りあうことに決めたようだ。我が弟ながら、頼りになる〜!
「あなたがに僕たちの行動を阻害される、なんてことあるわけないですよね? なにせあなたは第一王子の魔道士。第七王子の婚約者より立場は下だ」
「…………」
え? そうなの? と、思わず弟の顔を見そうになるけど、我慢した。
なんでそんなに詳しいのか、後で聞こう。由希って本当に変なことにだけは詳しいんだから。
「彼女が王宮に行くのになにをそんなに警戒するのかわかりませんけどね」
「突然陛下に謁見できるとは思えません。絵空事です」
「そうかな……? そもそも姉さんの婚約のこと、そんなに知れ渡ってるわけ?」
目を細める由希は、さらに続ける。
「異国、しかも異世界の女を婚約者だなんて、外聞はあんまりよろしくないよね。しかも、その相手が第七王子……これまた異国の王女の息子だ。
だったら、なにかしら姉さんに『裏づけ』をつけてから正式発表するはずだからね」
そ、そういうもんなの……???
「どうして第一王子は知ってるですかね……。姉さんの格好を見れば、明らかにおかしいと思うはずなのに」
「………………」
「連れていってもらえますよね? それとも、元の世界に戻してくれますか? 勝手に処分するのは、あなたの主人も望んでいないでしょう?」
「小僧、言うな」
「あなたの主人は我々の手の内にある。我々が無事に帰らなければ、第一王子も無事では済まないと思うんだな」
……か、かっこいいー!
な、なにこいつ! 弟のくせにすごいかっこいいんですけど! 絵になるんですけど!
ていうか、口からでまかせよくもまぁこんなに出せるもんだわ。
トカゲはしばらく黙っていたけど、やがて口を開いた。
「王宮まで連れて行く。妙な動きをすれば殺す」
*

