「由希! どこに!?」
「降りるときに落としたんじゃないの?」
慌てる由希が地面に屈んで探し出す。私もそれに倣った。
兵士たちは何事が起きたのかわかって、一緒になって探し出した。そりゃそうだ。国宝だってナギル言ってたし! やばいよ、なくしたってバレたら。
トカゲさんも様子を見てたけど、さすがにないと私たちを連れている理由を思いつかないのか、一緒になって探し出した。
「いまだ、亜矢姉! 走るぞ!」
「えっ?」
耳元で言われて腕をぐいっと引っ張られる。
「訓練した兵士だとすぐに追いつかれる! ほら、急いで!」
「えええええええーっ?」
わけがわからないまま、私は由希に引っ張られて全速力で走り出した。いや、だって指輪!
どうするのよ、このままだとナギルに怒られるどころじゃ済まないじゃないの!
でも文句を言えるような状況じゃない。とにかく全力で走ってるわけで、すぐに息があがった。
由希には目指している場所があるらしく、足取りに迷いが一切ない。
背後から大勢の足音が迫ってくる。
「こっちだ!」
由希が方向転換し、壁の隅に隠れた。私もそれに倣う。
目の前を通り過ぎた兵士たちをやり過ごし、由希は別方向に走り出した。
あら? ここって……お庭?
「噴水のところに隠し通路があるんだ。急いで!」
噴水? げえ! あんな遠いところ! しかも丸見えじゃないの! 全然隠れてないわよ!
一気に走り抜けた由希が、巨大な噴水の下部のどこかを一気に蹴りつけた。……ふつーにかっこいい。様になっている。恐ろしいことに。
がん! という音と共に穴が空いた。うそぉ!
「亜矢姉、先に行け!」
「で、でも由希」
「うるさいなあ!」
無理やり私を狭い穴に頭から入れた。痛い痛い! なんてことすんのよ!
「きゃあ! どこ触ってんのよ!」
ぐいっと一気に奥へと押し入られ、私はそのまま斜めの狭い道をずるずるっと落ちていった。
落ちた先で痛みに顔をしかめる。暗くて周囲は見えないし、たぶん腕や足は擦り傷だらけ。最悪……。
すぐそばにすとん、という軽快な音がして身を竦ませると、「なにやってんだよ」と由希の声がした。
「あんたさっきお尻触ったでしょ!」
「さっさと行かないからだろ」
「なんでお尻押すのよ! 太ももでいいじゃない!」
「あーもう、うるさいなあほんと。早く行くよ。隠し通路はこの先なんだから」
「えー? こんな真っ暗なところ……アイタッ!」
進もうとしてどこかに額をぶつけた。思わず屈んで痛みを堪えていると、由希が手を握ってきた。
「このくらいの暗さなら俺は大丈夫。じゃあゆっくり行くから急ぐよ」
「……変な日本語」
急ぐからゆっくりとか……。
無理に立たされて由希はずんずんと歩き出した。よくこんな光が一切ないところで……。
あまりにも迷いがないので、私は不安になってきた。なんか、こんな話を聞いたことがある。
亡くした妻を取り戻しに冥界まで行って、一言も喋らずに地上に戻るだっけ? あれ? 振り返っちゃいけない、だっけ?
「この辺りかな」
由希が立ち止まり、再びガン! と蹴った音がした。
ぎぎぎ、という音と共に隙間ができる。そこからの光に私は安堵したけど思わず「うっ、まぶしぃ」と顔を手で隠した。
「ほら亜矢姉も押して! たぶんあのトカゲさんはここのこと知ってるんだから、別のルートから追いかけてくるよ」
「わ、わかったわよ!」
一緒になって壁に手をつき、隙間を広げるように前へと押す。お、お、重いぃぃ!
なんなのこの壁! 重すぎる!
必死に二人で壁を押すと、なんとか人間一人が通れるくらいの隙間になった。いった〜手が絶対にはれてるわよ!
「ほら亜矢姉!」
「はいはい」
隙間から外に出ると、そこは古びた通路だった。
不気味なほど静寂で、石造りだ。しかも、光が入ってくるようにはなっていないのに、はっきりと「見える」。
由希が続いてくると、私を引っ張った。
「ほら、また押して。道を隠さないと」
「ええええー!」
「亜矢姉、急いで!」
うぅ、わかったわよ……。
重労働するとは思わないじゃない、普通。
二人で反対側を押すと、回転扉の要領で壁が元に戻る。
なるほどね……隠し通路か……。
「ボーっとしてないで行くよ!」
ま、また走るのね……。
*

