ぜぇぜぇと荒い息を吐いてその小部屋を見つけた由希は、ドアに鍵がかかっていることに気づいて慌てた。
「やばい! 鍵を壊してる時間なんて……。亜矢姉、ヘアピンとか持ってないの!?」
「……あんたはどっかの怪盗か……。あるわけないじゃない。もう髪もぐしゃぐしゃなのに……」
 ピンじゃなくて、なんか変な油みたいなのでびったり固められてるのよ、この髪。
 ドアはノブではなくて、鍵穴があるだけ。しかもなんだか妙な形をしている。
「穴が……10個あるのね」
「意味わかんねー」
 由希がしかめっ面でそうぼやき、穴の一つで「あ!」と声をあげた。
「ナギルの指輪だ。あれが鍵なんだ!」
「え、でも落としてきちゃったわよ」
「バカだな亜矢姉。あれはわざとだよ。俺がとったの」
 ほら、と差し出されて私は反射的に弟の頭を殴った。
「いってー! 乱暴な姉だなあ!」
「あんたね! ナギルが国宝だとか言ってたじゃないの! 本当に落としたと思って本気で冷や冷やしてたんだからね!」
「……悪かったから早くはめて、ここに指輪を」
 こいつってば、後で覚えておきなさいよ! たっぷり説教してやるんだから!
 私は指輪をはめて、どうすればいいのかしばし迷った。
 だいたいこういう時って、ほら、宝石が大きかったりするじゃない? でも、そうでもないし……。
「たぶん今の亜矢姉なら開くんじゃない?」
「そんな簡単にいくわけないじゃない。指紋認証とかじゃないんだし」
 由希が避けたので、私がドアの前に立つ。すると、ドアが自然に軋んで開きだした。うそだー! 嘘だと言ってー!
「ほらね」
 したり顔をする由希を睨んで私は中に入る。ドアは開くけど、閉められないみたい。まぁ自動みたいだし、しょうがないか。
 鏡鏡と探していると、姿見とは言えない、けれど大きな鏡を見つけた。
 形は丸い。私が両手を広げたくらいのサイズだ。
「着いたけど、ここからどうするの!?」
 鏡の前まで行っても、うんともすんとも言ってくれない。本当にここで合ってるのか怪しくなってきた。
「アヤ様! ユキ殿!」
「わーっ!」
 いきなりインコの顔が巨大に映し出されて二人して絶叫をあげて背後にひっくり返った。
 なんつー出方するのよこの鳥頭は!
「……なにを転んでいるのですかな。大丈夫ですか?」
 首を傾げるインコに私たちは疲れた表情で「なんでもない」と同時に返す。
「今から繋ぎます。もっと鏡へ近づいて!」
 インコの姿が少し遠ざかった。こいつはどこからこっちを見ているのだろうかと疑問になってくる。
「今です!」
 そうインコが言い放った直後に「あそこだー!」という大勢の声と足音が聞こえた。
 ぎょっとなった私は由希の背中を鏡のほうへ力任せに押した。
「早く! 由希!」
「亜矢姉!?」
 由希が鏡に呑まれるように消えてしまうけど、インコが私を助ける時間はなさそうだ。
「とりあえず隠れるから、待ってて」
「そんなアヤ様! それは無理で……」
 私は足音にどきどきしつつ、隠れる場所を探した。
 あ! あの衣装用の箱がいい! 隠れるにはちょうどいいわ!
「アヤ様、手を出してください!」
 足音はもう近い。無理だ!
 私はきびすを返して箱の中に隠れた。



 私が隠れた箱はいきなり後ろに倒れると、そのままふたを開けて私を放り出してしまう。
 ええ?
 驚く私は目を開いた。
 そこはあの小部屋ではなく、延々と続くあの廊下だった。石造りの……古めかしい。
 ど、どうなってるの……?
 立ち上がって周囲を見回す。
 けれど、私が落ちてきた穴はすぐにふさがり、戻れなくなってしまう。
 私はこの世界に残された――――たった一人で。