私は私を見下ろしていた。
あれ〜? なんか変なの。
意識がぼんやりとしているし、真下では私がナギルに背負われたままぐったりしている。
彼は折れた剣を振るって、なにかしていた。
閃光が稲妻のように神殿内を駆け抜け、彼の衣服がはためいた。
初めてテレビから出てきた時と似ている衣服。けれども露出が高めのそれのせいか、はためいた衣服の下で、彼の肌が少し露になる。
浅黒い肌に、大きく紋章が描かれていた。それがまるで蠢いて、息をしているかのようにおぞましく感じる。
「どけ!」
ナギルの恫喝の声に神殿がびりびりと揺れた。
わっ、と何かが散っていく。それも引き裂かれるように。
何が起こっているのかはっきり認識できない私は、眠っている私に近づく。
触れた頬をすり抜けてしまう。けれどもそのまま私はずぶりとそこへ埋まっていった。
元居た場所に戻るために……。
そんな夢を見たせいか、寝起きは最悪だった。
「うー……」
呻き声を発して、寝返りを打つ。すると、何かが額に当たった。
「……いっつー……」
右手で額を摩って、面倒ながらも瞼を開けると、赤い瞳と視線がかち合った。
あれ……? あれれ?
きょとんとする私を、彼は不機嫌そうに見下ろしている。
私は彼の膝に額をぶつけたらしい。
膝枕ではなく、あぐらをかいた状態のナギルの足によりかかって眠っていたことがわかり、恥ずかしさに顔が熱くなった。
「起きたか」
「お、起きました」
機械的にそう応え、私は引きつった笑みを浮かべた。
彼は嘆息し、それから頭に巻いたターバンを軽く揺らす。……ターバンに似てるけど、合ってるのかな、『ターバン』で。まあいっか。
頭の右端に垂らされたその布が揺れ、彼は眉間に皺を寄せた。
「ベッドで眠ってくれないので、どうしようかと思案していたところだ」
「? なにが?」
「おまえがベッドで眠るのを嫌がったのだが」
じろりと睨まれて、私は不思議になって上半身を起こす。
はらりと何かが落ちた。そこに視線をやり、仰天した。
「ぎゃーっ!」
気づくなり、悲鳴をあげてナギルを突き飛ばした。彼は不自然な体勢のまま、その場でごろんと転倒する。
んなっ、な、何も、何も着ていないとか……!
かろうじてかけてあったシーツらしきものを手繰り寄せて身体に巻きつける。
なにこれ。どうなってんの?
ていうか、見られた!?
起き上がったナギルは忌々しそうに私を見遣り、舌打ちする。な、なにその態度!
「妖精の粉まみれの衣服を着せておくわけにはいかないからな。それに、近くにいないとまたヤツらがさらいに来る可能性があった」
「? さらいに来る?」
「妖精どもはおまえを『惑わし』に遭わせた。それだけだ」
「で、でも、ふ、服をっ、ぬ、脱がせたままなんて……!」
「………………」
呆れたようにナギルが見て、頬杖をついた。
「妖精の粉のついた服を脱げと言ったら散々駄々をこねられて、仕方なく脱がせただけだ。
抵抗されたから、目隠しまでさせられていたんだぞ?」
「そ、そうなの?」
「触るなとかエッチとか、…………意味不明なことも散々言っていた。憶えていないのだろうな?」
「憶えてません……」
「脱いだ途端にくらくらするとか言い出して、眠いと喚いたんだ。
ベッドに行けと言っても聞かないで、とうとう座り込んで寝だした」
「うそ……」
なんていう醜態だ。いくらなんでもひどすぎる。
ナギルは面倒そうに息を吐き出し、瞼を閉じる。
「おまえの貧相な身体など見ていないから安心しろ」
ひっ!?
…………むぐ。お世辞にも確かにすごいボディというわけではないけど……。
そ、そこそこ胸はあると……思う。平均よりは、少し…………少しだけど……たぶん…………。
どーせ王宮とか、お城とか? そういうところにいる美人には敵わないわよ! うちはしがない一般市民の家庭なんだし!
ん?
その時ようやくわたしは周囲を見回して気づく。
豪奢な室内は広い。床には細かい手作業で作られたような模様の豪華そうな絨毯が広がっている。
ベッドとかはあるけど、低い。広いけど、高さがあまりない。
ナギルは大きなクッションみたいなものを肘置きにしていて、こっちを面倒そうに眺めていた。……ま、マハラジャ……?
いやでも、室内はインドっぽくないというか……。いや、インドに失礼よね。私のイメージだし。
「あ、あの、なにか服を……」
屈辱に耐えつつ小さな声で訴えると、ナギルはじろりと見てきた。うぅ、なによその目。
「清めてからだ」
きよめる?
思わず目を細めて睨むように見ると、ナギルが面倒そうに視線を逸らした。
むっかー! なにその態度!
もしかしなくても、たぶんここは彼の部屋で、私はまたも事件に巻き込まれた。で、助けてくれたのが彼……なのかしら?
…………重い。空気が。
うわ〜ん、お姉ちゃん、由希〜! 誰かいないの〜?
思わず視線を床に落として膝を抱えてしまう。もちろん、シーツは身体に巻きつけて。